第八話「海峡より」

要するにどこに落着する話なのかなと考えてみると。


「いいんだよ、持ち主はもういない」


なのでしょうかね、洋服だけでなくて、あのおにーさんにも当て嵌まることで。まあそんなものなのかもしれません。まだ好きなんだね、というか。
それをね、あの新しい奥さんである、あの子が知るべきだと私は思わないというかね。


いや、なんつーか。
あんなふうな不意打ちの形として、あの夫婦が出会っていたことを知らないだけで、あの子はちゃんと男の気持ちを知っているのかもしれない。
当人には言えないわけだけれども。




妻と逸れた男が、妻を待ち続ける話です、と言ってもいいし。
喧嘩別れしてしまった妻のことを後悔してる話です、と言ってもいいし(展開としてはソレは同じじゃねぇ?)。
なんていうのか、彼女がね。
あんなにショックを受けたのは、私は事実だったからじゃないかと思います。
で、事実かもしんないけど、それを言わなくてもいいじゃんとも。


まあまず、時系列に添えば。


男と妻が島流しみたいな目にあったわけですよ、もともと妻が大店の娘さんで男はその妻と結婚してて、でも店が傾いて。
その折にちょっとした失敗で追い出されてしまい。
男の故郷に戻ってきたのだという。




そーして、その展開の不満を妻が述べ。
なんでその店の娘(妻ね)と結婚しているのに追い出されるのかという話をし。
店が傾いていて、逆に結婚で妬まれ煙たがられていたのだと、男は言い。
そーして男は、妻にこうも言ってしまう。


「お前も、オレを利用しようとしてたんだろう」


とね。
正しいんじゃないかと思うんですよね。
要するに奥さんも長女でもなくてたただし息子は他にいなくて、店で働く(多分能力があった)男と結婚することで、跡継ぎに納まれるのかもしれないというような。つか、考えていてもいいと思うんですよね。それって悪いことかな? と私なんかは思う。
てか別に、それだけでもないでしょう。
好いた男に、メリットがついてくるかもしれん、てのを期待していけないものてもないでしょう。そりゃ、人聞きは悪いかもしれませんが。




で、それが最悪のタイミングだった、と。
3年? いやあれは同個体がか。
龍だったかなんだったか、いや正直忘れましたけど、なんかぱっくりと別の世界の口が開く時期にちょうど合わさってしまった。


それに飲み込まれると、「岸に帰りたい」と思っていない限り岸が見えなくなってしまうという。


でーもねー、あの奥さん、あとでなんやかやでギンコ(毎度のよーに話を聞いた☆)と男が彼女を見つけた時、3日しかたってなかったんだよ。
どころか、3日よりずっと早く落ち込みから回復してたのかもしれない。
そのくらいで戻れることだったんだよ。
男は、彼女を3年も探したんだよ。




それでも男は妻を思い切って、結局岸に戻ったわけですけど。
もうすでに、岸に生活の基盤も、待つ別の女の子もいるわけなので。


彼女は、延々と待ち続けてる男を不安に眺めていたよーな子で。
でもそのことを多分直接彼に告げたことはないんじゃないかなぁ。


一瞬のタイミングで男は妻を喪って、3年たってまた一瞬出会って。
ギンコがいなければ、そのまま妻と一緒になんにも考えずに行ってしまったのかもしれないけれど、いや、彼女が生きていたらどうしたんだろうか、悩んだんだろうか。
悩まず妻を選んだんだろうか。
そうはならなかったわけだけれど、彼女は要は幻でしかなかったので。


それでももしかしたら、彼はそんな運命をもたらした「龍」も恨んではいないよーな。
自分の一言が妻を傷つけたかもしれないことも。
強い後悔ではなくて、どうしようもないこととして残るのかもしれない。


あの女の子は、一生それを薄っすら知っているのかもしれない。
でもお互い今度は、口に出すよーなことはないのかな。