『天保異聞 妖奇士』説十七 幽世(かくりよ) / 説十八 漂泊者の楽園(ひょうはくしゃのらくえん)

うーん、この話はあんまり好きじゃないです。
なんというのか、アビまでには感情移入出来ても、その姉・ニナイにそうすることが全く不可能だからで、それが完全に敵だっていうのならともかく、あやしの一員であるアビ(今まで名前は覚えてなかったけど、密かに一番の常識人)が、仲間を離れてまで追いかけていた姉が「あんな」っていうのはなんだかなぁ。
残酷なことはまあ、特にエンターテイメントにおいて必要なことだと思うんですが。
それが面白いものでない場合はどうしても鼻に付く。


彼らの辛さ、というものが特に描かれてないから違和感があるんですよ。


なんというか、“山の民”に憧れてそう名乗っていた青年のほうがよくわかった、山々を越え、何者にも捉われない存在に対して夢を見てしまうのは、間違っているのだとしても仕方がないことだと思うんですよ。
けれどこの話はそうじゃない。
感情の昂ぶりでもって、人を蹴散らし、そう望んだからと妖夷を人工的に作り出してしまえるニナイのほうが辛くて苦しいんだよ、というそういうところに落着してしまうんですよね。それが悪意として顕在化したのはわかりますが。


しかしそれでも、彼女のほうが辛い、ということにはなる。
ニナイがいっそ己の内心なんぞ語らないでくれれば良かったのに、今までの例に倣ってかぺらぺら喋ってくれるものだから、どうにも座りが悪くて仕方がありませんでした。


全員等価で、それぞれが大変でままならないものを抱えてるんじゃないの?
それでもニナイっつー、特異な力を持った者に関してはやっぱり特別なのだとそういうことになるのでしょうか。怒りは向けられていたけれど、どうにもその感情そのものは認められたようにしか見えなかったです。




そして多分それは、こういうふうに話を眺めていない人にとっては。
説教臭さというように見えてしまうんじゃないでしょうか、今までそうでもなく、とにかく容赦がないほどに登場人物たちに平等に注がれていたはずの残酷さなんですが。
一旦、「実際に特別な存在」になってしまうと、特権化になってしまう。
ニナイに物語りの残酷さが向くのではなく、すでに散々苦労してきたはずのアビに対しての残酷さ、姉を失う、という形にしかなってない。


だからなのか、アビを持ち上げるようにして話は終わりましたが。
それ自体は別に構わないものの、ニナイが「格上」の存在だというのは変わっていない、ユキさんがぶった切っても無駄なんですよね。彼は裁く者ではないから、つーか、ニナイと同類だった人だから。


というところで、これ自体が存分に観念化している内容ですが。


なんつーか、ニナイが聖域のまんまで終わってしまったなぁ、というのが実感なんですわ、んで今までこの番組の通ってきたラインからすると、どうにも違和感があるわけですよ。それでいいのかよっていうか。
んにゃ、ちまちまとニナイの否定はしてたんだけどね。
しかし否定しきれずに終わってしまったと。




まあ一言で言うと、異種族、山の民のニナイが全ての事態の現況だったよん。
姉を探してたアビが、ニナイのことを問い詰めても、せいぜいが一緒に暮らそうよ、という返事しか戻ってこないという、歯応えのなさ。それもなんか、家族の愛情というよりは情け深く思いやりのあるアビのことは認めてるからというそういう理由らしく。


いっそ、今までのテーマとは違っても、その遠さを扱えば良かったのになぁ。
ニナイが人の心を捨ててしまったのだとしたら、それはそれで仕方がないんじゃないかというか、なんというか、あんなふうにつらつらと語って欲しくなんかなかった。


人間たちが汲々と、ニナイの悪意の元にきりきりと舞っている、別にそれはいい、勝手に夢を見て、手もなく地位だ自分だけが優れた選ばれた存在だ、と浮かれて思い込むというのは悪い展開ではなかったですよ。
古き支配者の末裔・ニナイに選ばれたと得意満面の商人もそれ自体は。
しかし、なんかその動機として、流れ続ける生活に絶望した、ということを語られてしまうと違和感が消せず。とっとと向こうの世界に消えてしまえばいい、せいぜいアビだけ迎えに来ればいい、寂しいなら自分の仲間でも増やせばいいとしか思えない。


なんちゅーのか、全部が駄目だったわけではないです。
んでもあれだった、結論の部分がどうしても納得がいかなかった、事件なんてのはわりと面白かったような気がしてたんですけどね。
もしかしたら、最初に計画したものに拘りすぎてしまうのかなぁ、と思うんですが。
(いや、脚本家さんがね。)