「虎口の総統 李登輝とその妻」

「虎口の総統 李登輝とその妻」
 上坂冬子、文集文庫(2001.10)


上坂冬子さんとゆーのは、別段平等なヒトとかではないと思います。
でも、それがなんていうのかなぁ、無理がないというか、理解の及ぶものだと割合と誰の目にも見えるよーにも思うんですよね。
そもそも、正義とかは口にしないんだよね。
彼女が口にするのは、いや、匂わせてるのは大抵「善良」。


そーすると、その向こう側にはどうしても「悪」が透けて見えるんですが。
対立要素が正義じゃないのでどっかしらその捉え方は柔らかい。
己を律することによって、そーいう状態になっているわけではなくて、結構自分の感情の赴くままにしておられても、最初から柔軟であることが出来るというか。
ある種、得がたいことではないかと思います。
つーか少々、単純だし俗っぽい方ですよね、、、申し訳ない。
それでも頑強ではない、とね、そんな立ち位置かなと。
あともとが上品だよね、世に拗ねてないっつーか。
よくも悪くも、トータルで女性っぽいと言ったらいいのかなァ。


正直に言えば、物によってはかなり閉口するんですけれども、それで彼女自身を低く評価するつもりにはなりません。
人としては信じているというのかな?




多分、そーいう彼女が扱う題材として、李登輝さんは最高のものだったと思います。
そりゃあまあ、彼ら夫婦が日本語を使っていることを繰り返し繰り返し記述したり、「日本人による差別があった」と言われた時にかなり露骨に話をズラしたり(でもそれ自体は削除してないんですけどね)(嘘は嫌なんじゃないかしら)。
ナショナリズムって言ってもいいんでないかと思います。
でも、別にそんなのは自然な感情だよね。


そーして、どこの国の人であっても、己の価値観に合えば褒めますこの人。
李登輝さんなんかはまあ順当ですが、蒋経国さん辺りのことも、どーしてもどーしても悪く書けないんですよね。ちょっと苦慮したみたいな後が見えて面白い。w


この本は、台湾の本でして。


まあ、うーん、この「国」がどーいう位置にあるかとか、書いてくと長くなりすぎてしまうんですが、現地人と「外省人」つー中国大陸からやってきた人らが国を牛耳っていたりしたんですよ。まあ今でも現行勢力らしーですけども。
まー別に、そんな土地も珍しくはないですけどね。
(中国も何度か異民族政権あるし、インドはすげー昔ですが今も形骸残ってます。)




ちーさな島ですが、一国として成り立つのに不足ということもない。
けれど、中国側は、彼らを自分の国の領土だと――うーん、思っているというのかなぁ? もとは興味なかったと思うんですけども(だって魅力無かったしさぁ)。
まあ、結構長い間、いろんな国に所有された過去があったりする島でもあります。


そーして戦後、どーいうわけか、非常に豊かな国になってしまった。
その一因を、この李登輝さんに直接求めても笑われるということはないでしょう。


その彼を「選んだ」のが蒋経国
中国大陸で対抗勢力に負け、唐突にやってきて島を血で染めて占領した(いくつかの意味で)蒋介石という男の長男です。




善と悪は、あんまりそこにないよーに思います。
少なくとも存在がどーこーと言ったらファンタジーになってしまう。
複雑な土地であって、外から見た人間にはもちろん、当事者たちだって、どこからどこまでを憎んでどこからどこまでを愛していいかわからないよーに思うんですよね。


まー、なら、わかんない、と言えばいいことですけどネ。


でもねぇ、李登輝さんは本当に一生(ご存命ス;)、己が善であろーと努力し続けた人なんじゃないかと思うんですよね。
タイトルにもある奥さんにね、ずっと助言を受け続けてね。
「彼女が常に一般市民だからです」ってねぇ。
強い、つーか健全ですよね。


上坂さんがインタビューして、どんな本が出来るか楽しみに待っていた、と。
心配することもないんでしょう。
それはやっぱり書き手さんへの信頼もあると思いますが、全てではないかもしれなくても、己の人生に胸を張れると彼が思っていて構わないです、私は少なくとも。


混乱の中で、憎しみも焦りもあったでしょうが。
こーゆー人が、健康で長生きしてくれている世界であることが嬉しいです。
しっかし司馬遼太郎さんのことホントに好きですねー(なんで落とす)。