NHKスペシャル『アウシュビッツ(5』開放と復讐

――私たちは混乱している、私たちはわけがわからない。


というふうに考えるのが、案外と一番収まりが良いのではないでしょうか、収まってねぇよ、という突っ込みがあるのならもっともですけれども。戦後処理というのは最初から奇妙です、戦争って一体、どこからどこまでが犯罪なのでしょう。
戦争自体を否定したからと言って、関った人間全てを皆殺しには出来ない。


感情論で語るにしても、古代ならばともかく、現代では現実的と言えません。


番組の中、ガードナーという人が語りますが。
彼は「永遠に反省し続けろというのですか」と口にする。
アウシュビッツの、、、最大の収容所で、それなりの地位に着いていたのだという人です、確かに虐殺自体には関っていない。けれど、関らされたのはそもそもが他の収容者だったりしたのならば、ソレが果たして「マシ」という判断にされて良いものなのか。


そーして私も、違和感があるものの、多分彼の目の前にいてもすら黙るでしょう。


ガードナー氏が己の過去を語るのは「虐殺なぞ存在しない!」という主張をなす人間たちの口を封じるためだというのですから、戦後不起訴となって、今は本当に穏やかな顔で良い家庭人であるだろー人が。
喋らずいることも出来たのに証言しているのです。
それを、ただ非難するのもやっぱりどこかがおかしい。




ドイツが収容していた捕虜であったソ連兵たちの戦後。
スパイではないかと疑われ、強制収用所に送られてしまった顛末。


ドイツ兵の送られた先の一つ、イギリスでの穏やかな生活。


財産を奪われ、勝手に生家を占拠され、挙げ句の果てに「隠した金はどこにあるんだ? 山分けしよう」と己の家に住み着いた男に言われてしまうユダヤ人。
ユダヤ人を金持ちだと思っていたんでしょうね、そこまではわかる。
家に勝手に住み着いたこともわかる。
でも、そのあとはなんでしょう。なんで唯々諾々と従う、人形かなにかのように己のものでない権利まで主張してしまうのか。
ユダヤ人の彼が去ったあと、男は家が壊れるまで「宝探し」をしていたそうです。夜も昼もなく、その家に住めなくなるまで徹底的に。私には、狂ってでもいるよーにしか思えないけれども、それは酷い見方なんでしょうか。
でも確かになにか、哀れにも思いますけれど。
まともにその後、生活出来たのでしょうか。


ソ連兵にレイプされた強制収容所にいた少女ら。




ナチス親衛隊の炙り出しに動き。
私刑を行っていたという、ポーランド軍の中にいたユダヤ人部隊。
「後悔していませんか?」と聞かれ、首を横に振りました。


同じく、アウシュビッツの所長をしていたルドルフ・へスを捕まえる時に、その妻を脅して「息子をロシアの強制収容所に送るぞ」と脅して口を割らせたこと。
農園で働いていたヘスを捕らえる時に、手酷い暴行が行われたコト。
その後、死刑になるまで手記を書いていたのですけれども、その中で後悔していると述べたことは「家族との時間をどうしてもっと持たなかったのだろう」ということだけだったというそんな話。


一個ずつを考えるのはおよそ見当違いで。
けれど、まとめて考えようとするとわけがわからない。




ならば、どこかで、幾つかの出来事を絡めて少しずつ、と思ってもどこからどこまでを「切れば」いいのかわからない。
ヘスの奥さんに行った行為をやっぱり酷いと思い。
ガードナー氏の証言を善なのだろうとどうしても思わずにいられず。
ドイツ兵以外から行われた暴行を物悲しく思っても、その保障が出来るわけでもなく、そもそも断罪するべきなのかどうかもわからない。なんの力も影響力もなくても、その出来事に「是」「非」の判断をつけることくらいどんな人間にでも許されていると思うのですけれども、それでも私は判断することすら出来ない。


アウシュビッツ収容所は悪、でしょう。
人を殺した。
そこで働いていた人らは8千のうち、裁判に掛けられたのは7百人。数を問題にすればいいのでしょうか、それともそれは見当違いでしょうか。
確かに門番の一人、会計の一人に至るまで裁くのは違う気もするし。
そもそも収容所は他にもあったハズですし。


ガードナー氏は?
じゃあ、私刑で親衛隊をなぶり殺しにした行為は?
正直、まるでわからないけれど、変な結論を付けずに「わからない」ことを目の前に差し出してくれたことにとりあえず感謝をしてみたいよーな気はします。


罪って、そもそもどんな色や形をしているのでしょうかね。