『ゴッドファーザー』

『ゴッドファーザー』
監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランドアル・パチーノ
  /ジェームズ・カーン


昔、やくざの息子さんだという人とネットで話したことがあります。
本名をバラし、検索するだけで住居もわかるよと軽く言い放って、大丈夫かと聞くと「今更」という返事。なんというのか、それ以上のことは話さなかったんですが(彼自身の身元に関しては)、危険がどうとかと心配する私が滑稽に見えたかもしれません。


けどさ、彼は、19歳でちょっとピアスを変なとこに付けてるだけの。
悪いことなんにもしたことがないちょっと意地っ張りなだけの人だったんだよ。


こーゆー、マフィアに生まれるがどうとかってのはわかりません。
なんとなく、家業を選択するにしてもそうでなくても、どう足掻いても逃げらんない部分があるようには思います。「そう生まれた」ということは消せない。そこから選択出来るものはたった一つきりではないのだろうけどもね。
そしてもしかしたらこの映画は、そういう「彼」のためのものだったんでしょうか。
私は前評判から、どうしても「その世界」を描くための映画としてしか認識出来なくて、そう認識していることで見ている段階からずっと違和感が消せず。
何度挑戦してもレビューも書けないまんまだったんですよね。
(こんな程度ですが、消化か納得をしないとやっぱり書けないですよ。)




私が期待していたのは多分、非合法な手段は使うものの。
理不尽なことはしない人たちだったんじゃないのかな、けれど彼らは身内のことを最優先するということがなによりも大切で。明らかに筋が通った主張をしていた映画監督の大事に大事にしていた馬の首を切り落としました。
だってあの男、自業自得だったじゃない。
せめて、謝罪なりとすべきだったんじゃないか、泣きつく前に。
それで駄目だったんだろうけども、やっぱりなんか納得が行かないんですよ。


娘を騙した男に制裁を与えて欲しいというおじさんに、でもアンタ、自分の挨拶とか無視したよねー? みたいにねちねち言ってたのもなんかいまいちだったんスよ。
これがラストのほうのエピソードならねぇ。
いやまあ、そんなものだよ、と言われたらそうなんかもしれないけどさぁ。
でも映画に入るのに邪魔でした、違和感というか。


もしかしたらマフィアってものに幻想を抱いていたらそれでいい具合に壊されて丁度良かったのかもしれないけど、私には明らかにマイナスに働きました。
あまりにもラストに向けて一直線に見えすぎた。
滅んで当然の人らという印象から始まってしまったんですよ。


強固な組織がちょっとずつ亀裂が入っていくという展開だったはずなんですよ、どうしてもそう見ることが出来なかった。最初から捩れていて、それが単にどうしようもなくなったように、自業自得にしか見えなかった。


いや、私の見立てそのものが違うのかもしれないけれど。
こんなに始終、重っ苦しい思いをするためだけに二時間も付き合ったんじゃない、どこの時点でも少しも報われなかったんですよ。ちっとも楽しくなかった。
結論が抽象的であっても、文学や映画なら許されますよ。
なにもこんなに有名な映画にいちゃもん付けたいわけじゃない。


けどなんか、映画だけでは足りないのではないか。
前もって、なにかしらの感情や認識を持っている必要があったんじゃないかと思ってしまうんですよ。誰にも、どこにも感情の投影をさせる対象がなかった。
悲しいとすら思えなかったんですよ、どうしてなんだろう。


良く出来た話だとは思えたんですよ、そんな問題じゃない。
でも、彼らの虚飾が最初から虚飾にしか見えないのは辛かった、途中で剥ぎ取られてくべきだったんじゃないの、印象の上では。どういう心持ちで見るのが正しかったんだろう。


なんかもう、全然ベクトルが違うのに最終的に残った印象が日本の『仁義なき戦い』とあんまり変わんなかったんですよ。あの考えなし集団。
殺しまくって殺しまくって欲望優先で、最後の最後にやっと小康を得ただけの。
アル・パチーノ渋くて格好良かったよ、でもなんかこう、なんか期待してたのと違ったというか、、、あああ、私は一体なにを期待していたんだろうというかっ。
なにが起こっても、どうなっても自業自得だろって感じるの切なかったですよ。




一つの古いマフィアが、ゆっくりゆっくりと崩壊していく映画でした。
そして距離を保っていた次男が少しずつ当人も周囲も追い詰められ、家に戻って来なくてはならなくなった過程だったんでしょう。


どうあって欲しかった、こうあって欲しかったというわけじゃない。
私はこの世界に夢中になりたかった、酔いたかった、そうしたらきっとこのゆっくりとした崩壊が非常に辛いものになったろうと思うんですよね。
出来れば本当に、そういうふうに見たかった。


頭で考えて捉えなおした崩壊は非常に美しいんですよ、確かに。
残念なんだよなぁ。。。