「ありがとう、ありがとう!」

前に友人に連れられて野球場に行った時のこと。


ホームランとファールの境い目なんて始めて知ったくらいに疎かったが、要するにそんな感じのすれすれのボールが飛んできた。ヤクルトと、、、どこだっけ? 相手。
ごめんなさい、友人はヤクルトのファンとして行ってたんだよ。
私は古田監督が好きだからのこのこ付いて行った。


ファールのラインのところにボールが飛び込み。
バウンドして、ホームラン側に入って行った。


私たちのすぐ側だったからそれは目に見えたが、別の角度、ましてやラウンドから見るのは大変だったろうとそれは思う。
「ホームラン」の判定が出た。


とにかくなんも詳しくない私は、ただぼんやり。
後味悪かろーなー、、、なんてちょっと思っていた。
ホームランが出るととにかくちょっとしたお祭り状態になるのだ、その点差のおかげで逆転なんていうおまけまで付いてきていた。
「ああ、こらあかんね」
と友人が口を開いた。


「なんで?」
「一旦出た判決は引っくり返らん」


そんなことが慣例のよーだった、誰の裁量なのか知らないが。
多分審判以外に見ていた人間もいる、画像にも残っていたのかもしれない(いろいろと客席を写していたし、そもそもボールは追うだろう)。
そして、審判たちが寄り集まり。
私は目が悪いので、流れとかはよくわからなかった。


あまり長引くと嫌だなぁ、とぼんやりと思っていた。
しかし、これで勝ったら、このままどちらにも点数が入らずにそのまま試合が終了したら、それはすごく後味が悪いんだろう。
でも、もう少し点差を入れたらいいのか?
それともその上で、さらに相手に点を取られて負けたら?


どうなったらいいのだろう、よくわからない。
歪んでしまったという結果自体は戻らない。




正直、「ヤなもん見せたな」と思っていたろう、友人は。
私はほとんど野球というものに興味がない、スポーツにもない、いろいろと聞いていて選手がどーのとも聞いて、面白くはあったが。
最初(ではなかったが、一応)の球場がそんなってのはちょっともの悲しい。


そういえば、ヤクルトの点だった。


応援していない相手チームだったらどーだったんだろうか、それもよくわからない。
しばらく試合は中断していた。


じきに再開した時に「今のホームランは、、、」言葉は覚えていないが。
とにかく、ホームランが取り消されたことはわかった。
友人が目を瞬いていた、よほど珍しかったのか。


ホームランは消えたが、捩れた結果が消えたことが私には単純に嬉しくて、ならばもう一点、もう二点と取ってもらおうと心置きなく応援をした。
そーして、最終回、延長になるかならないかというところ。
そーいえば、「打率低いなぁ」と友人を嘆かせていた古田サンが出てきた、うんまあ確かに、ほとんどこの試合でも打っていなかった。w
私に限らんと友人に限らんと、ヤクルト側の席は無茶苦茶に応援した。
なんも遠慮しなかった。
(人はだいぶ減ってたが。)


んで勝った。


ちっさいヒットを飛ばして、二点を入れた。




ヒーローインタビューはもちろん彼、くるーっと客席の近くを廻った、近くに若いにーちゃんらがいて、がんがんがんがんがん、とやたらとメガホンで金網を叩いていた。


一人が口を開く。
「ありがとう、ありがとう古田!!」


なんだそりゃ、と全く思わなかったわけじゃない。
けど、なんとなく、今(詳細は書かない)、そんなことを思い出した。そーしてしみじみとそのにーちゃんの意味が沁みた。
誰しも、そんなふうに岐路めいた物に立たされることはあるんだろう。
それが大きい小さいの差はあるんだろうけれども。
彼はそーして、確かにヒーローだった。


あのにーちゃんも、私のようにそれを思い出しているんだろうか。