『スクラップ・ヘブン』

君の泣いてるとこが見たかった。

『スクラップ・ヘブン』
監督:李相日
出演:加瀬亮オダギリジョー
  /栗山千明


っつーか、痛みって一体誰のだよ。
変な映画つーかなんかなぁ、『アカルイミライ』がわりと気に入っていたよーに見えてると思うんですが(気に入ってんですよ)、似てるってわりとあちこちで言われてるんではないのかと思うんですが。
や、見かけたのは一件ですが。
ほら、ゴキブリ方式で(失礼です)。
で、見終わった後に別のことをちょっくらしなくてはならんわけなのですが、いや、私ではなくてパソコンが、それに付き合ってる時間になにを書こうかと思った時に(私、資料類はなんも使いません)、見終わった直後のコレを書き始めていました。
そもそも映画を見ている時から、あー、多分コレは少々期待されているんだろーという心持ちで、どんな切り口にしよーかなと思ったりもして。そんなに集中してたかっつーと途中で目を離してしまったりしたんですが。


サキってなんだったんかなぁ。
とか考えたら、しかしならシンゴがわかるかっつーとそんなこともなく、テツがわかるかというとそんなこともなく。
もっとコミカルに≪復讐屋≫が描かれるのかと思ったんですがそんなこともなく、てゆかこの世界には「世間」が存在していない。痛みとやらが、テツがやったら口にする想像力が、想像するべき、痛みというものが一体どこに存在しているのかわからない。
口頭で、述べられているだけじゃあないですか。みな。
誰のソレを、思い浮かべるべきなの一体。
地下鉄サリン事件で後遺症が残って、社会から排斥された結果、病院に入ることになってしまった、テツのおとーさんのこと?
それとも彼が、帰ってくるのではないのかと、一瞬でも期待した挙げ句にあんまりにも裏切られたテツのこと?
シンゴの痛みって、捜査一課に行けないこと?
誰かを救う立場でありたい、という妄想が、それがちっとも叶えられないことなのかしら。


しかしサキの痛みだけはどうしようもなくわかる。
その迫力は、バスジャックをするよーな思い詰めた政治家秘書にすら、引き金を引かせるのに十分だったということか。
なんで彼女は、テツに関らなかったのか。
シンゴが運ぶには、彼女の痛みを運ぶには、そもそも人の痛みなぞを引き受けるのには彼は歪がすぎるよーな気もする。


テツにもあったし。
サキにもあったのに、他人の痛みを運ぶ能力が。
しかし彼らは、純粋というよりは純粋に生きざるを得なかったというような気もしないでもない。ならば私が、今、そうと、純粋と指して言ったのはむしろ絶望と諦めということなのかもしれない。
サキはとうに諦めていた。
テツは完全に諦めていたわけではないのかもしれなかったけれど、そんなのは眠っているよーなものでしかない。なにが出来うるわけでもないからだ。
シンゴには、本来絶望に値するよーなものがなんにもなくて、彼の痛みは漠然としたものでしかなくて。それこそ想像やら、己のヒーロー願望のような俗っぽい妄想なのかもしれないけれども。
それでも彼の痛みは、己が物ではなくて、人のものだったのかもしれない。


けれどその痛みが、どこにある、どんなものであるのかがわからないのだ。描かれていないのかもしれない。テツの痛みはわからないでもない、人によっては明確にわかるだろう。サキの痛みは私には酷く明確なものだったけれど、人によっては想像するしかないものだろう。
シンゴの嘆きは、一体なんに対する痛みだったのか。
わからないのだ、弱いことに嘆いていたよーにも見える、意気地がないことに、頭が廻らなくてテツにいいように利用されたことの怒りはあったろう、サキに向けたのがただの己の充足願望だけだったとは思えない。
俗人なんだけれども、そーいうところにしかないのかもしれない。
テツが求めていたのは、そーいうものなのかもしれない。
テツはだって、自分の痛みで手一杯だったろうから、社会を見た時は与える一方になってしまうだろう。彼は辛い。
シンゴは、痛みを、社会から受け取る。泣く。


テツにもサキにも、他人のために泣く力はなかったのではないか。


なにを、テツは持っていったんだろう、望みのものを手に入れてからでないと彼は死なないだろう。命の重さがどーとかではなく、そーいう人間だと思うのだ、サキはシンゴの同情を受け入れた。少し。
それでそのまま去ったけれど、彼女が受けた同情はもしかすると、あの一瞬だけだったのではないか。今まで、生きてきて。


シンゴはそもそもなにに絶望していたのか。
そーして、なにを手に入れたのか。手に、入れることになってしまったのか。あのあとの人生に少しの興味はあるけれど、なんていうのだろうか、周囲のものなんだ、彼のことは、うーん。わからない。彼はなんだったんだろうか。


サキは抱き締められ。
テツは殴られたどさくさに紛れて彼に触れた。
あんまりエロい手付きだったんで、思わずどきどきした。人のために泣いたのは、彼以外に誰もいなかった。口で同情を示す老刑事はいたけれど、なんていうのかそれは怒りだったんだと思う。
そう、サキもテツも、痛みに泣いていたのではなくて、怒り狂っていたのではないか。泣いていたのは本当に、シンゴだけなのじゃないか。


奇妙な映画だったんじゃないのかと思う。
評論は差し控える。今更ですが(したことねぇし)。