車道側を歩き続ける彼のハナシ。

別段、このカテゴリにした意味はあんまりないんですが。
ぶっちゃけると、えーと、どこをぶっちゃけるかな。


「彼」は幼い頃、自分に駆け寄ってくる友人が目の前で車に跳ねられたという経験を持ってまして、その子は亡くなってしまったよーです。
詳しいことは聞いてません。それがいつなのかも。
私はなんてゆーか、どうしてかはわかりませんがこういう話をよく聞きます。
けども、「彼」は私にとっても少し特別でした。


多分、その経験が彼の全ての価値観を支配してたからじゃないかと思ってます。
いや、私たちは、あんまり自分の話をしませんでしたが。




「なんで諦めないの? 通じるわけないのに」


という会話を交わしたことが一度あったでしょーか、さて、なにを諦めないというのか、通じるわけがないという言葉の向くところは一体どこなのか。
多分私が、全校生徒の前ででも、クラス全員を敵に廻しても。
それでも口を閉じないことがあったということでしょうか。


私は劣等性であったことは一度もありませんし、成績は悪いほうではありませんでした、それほど勉強に興味があったわけでもありませんが。
けれど変わり者であるというレッテルがなかったことは、多分一度もありません。




私が「諦めてない」のだとしたら多分、喧嘩が止んだあとに、俯いて小さな声で。
「味方出来なくてごめんなさい、、、私は、貴方が正しいと思います」
というふうに、伝えてくれるヒトが、時々いたからでしょうか。


私と同じ精神を、つーか、似た精神を持っていたのだろう彼は。
多分、私より少ぅし賢かったんだと思いますが。
だから、そーいうふうに告げられたこともなかったんかもしれません。
別に私は、自分がなにがなんでも正しいと思っていたわけでもなくて、気が済まなかったということが強かったんだと思いますが。
でも、私がそう思っている時に時々、同じことを思うヒトがいたということになるんじゃないかなぁと。
それなら、私は単に我慢しない、満身創痍になることに慣れている、つか、「同じコトを感じる人ら」の存在をなんとなくでも知っているから怖いことが少ない、というだけのことなんじゃないでしょうか。


そしてそーいう人らは、時に見苦しくでも暴れる私を見て、やっぱり「自分だけじゃない」と感じていたのかもしれない。


「彼」はなんとなく、私だけが同類だと思っていたような気もします。
でも、それでも彼は私にとって特別でしたが。




なんていうのか、生きてるとたまに「黙れ」と言われるじゃないですか。
「お前たちが黙れば、全て丸く収まる」って。
アレ、私嫌いなんですよね。たまには仕方がありませんが、仕方がありませんが、それを正当化まではされたくない。
踏みにじられたら、その記憶と罪悪感くらいは引き摺って欲しいんですよ。
もしくは逆、自分たちが踏みにじったら、そのことは忘れたくないんですよ。


どこ行っても、なくなりませんよね。
よっぽどいいリーダーがいて、なんでもかんでも采配を振るっていたらそーならないこともありますが、そしたらそのリーダーは大抵疲弊している。
だったら、スマートじゃありませんが、全員で苦しむべきかなぁと。私は。


「彼」は自分がなるべく苦しめば、後が楽だってような人でした。
一番効率的だって。
ほとんど全部の仕組みみたいなものを理解した上で。
もしかしたら正しいのかもしれませんが。




そんな「彼」はいつも車道側、人の少し後ろを歩いていました。
彼の経験が直接の理由なのかもしれないし、彼の行動原理が現れていた一番わかりやすいだけの例だっただけなのかもしれない。


「だってホラ、前から車が来たらわかるだろ? 後ろから来たら、オレが轢かれてる間に、一緒に歩いている人は逃げられる」


そんなことを、わりと冗談めかして、誰にでも言っていたみたいです。
私が女だからってんじゃなくて、誰と歩いていても。
時々は私が車道側を歩く、と言ってもなにがどーしても譲ってはくれませんでした。


で、一度、言ったことがあります。
「でも、君が目の前で死んだとしたら、私はどうすればいいの?」


私は、彼が困っているというか、弱っているというか、言葉に迷っているところを思えば一度も見たことがなかったよーな気がします、その時以外。
それ以外は、なんだか全部、当人が自覚していた。
弱っている、最近どーだ、昔こんなことがあった。全部覚悟済み。


「ごめん、、、もう耐えられない」


後から考えてみると、「彼」が私に甘えたのはそれきりだったでしょうか。
ソレを甘えなどと呼べるのならでしょうが。
とても良い関係だったのかもしれませんが、なんだかフィクションのような思い出でもあります。今、私と彼が一緒にいないのも、なんとなくしょうがないことのような気もします。
上手くは言えないのですが。