「46番目の密室」

46番目の密室 (講談社文庫)

46番目の密室 (講談社文庫)

≪密林.com≫

この本を読んだのはえーと?
高校生くらいなんじゃないかと思うんですが(大学生だったかもしれない;)、まあとにかく数年以上前ってことは間違いないんですが。


実は特に面白いとか特になかったです。
んでもって、なんでそれなのにいきなりレビューを書くのかといいますと、数年たっていまだにストーリーの細部に至るまでばっちり頭に残っていたからです。
そもそも、思い出すのに苦労すらいらないという。
なんでしょーね?




そもそも女性ファンがものすごく多い作家さんで、ふと気が付くと10年来なんてぇ人がごろごろしていて、なんでかな、というとまあ。うーん。。。
あのですね。
「女性ファン」が多い理由とは少しズレるんですけれども。


私、この人の作品の中での「死者」に対して、それを軽んじようと思ったことはほとんど一度もないんじゃないかと思います。
結構作品数が多いのですぐには思い出せませんけれど、2時間サスペンスドラマばりの、「殺人者を脅迫して殺されー」というような間に合わせの人もいたかなー?(忘れた)
うんまあ、いたかしれませんが、それでもね。




(つーかこの本で近いのいたよ...orz)


この本で殺されたおっちゃんは、まあ、本を読んでいる時にはあんまり感じませんでしたけれども、なんか随分滑稽な人生ですよ。
ミステリ界の大御所と呼ばれていて、45冊の推理小説を出していて。
ヒットも何本か飛ばしていて、その全ての内容が「密室」。


言葉だけで聞くとなんか変ではないかなと。
大御所っつったって、要するに人生掛けてんだ。
「密室」とやらに。


そいでもって、彼自身が密室で殺されたと。


滑稽を通り越して、どっかしら哀れじゃないかと思えます。
作中の語り手であるアリスさん(成人男性の名かーっ、とか思ったけどなんか慣れた...orz)なんてぇのが、駆け出し、とまでは言わないけどわりと泣かず飛ばずだったりする推理小説家さんだったりして、むしろ目標。
笑うような意思はまるでないものの。


彼の友人である火村さんなんてのは、その大御所が仕掛けたミステリ作家集団、つーかサロンめいた関係者ばかりのパーティも含めて、ちょっと冷淡な視線で眺めていたのではないかな。
別にはっきり書いてはいないんですけれどもね、この人の書く人物には、ほとんど脇に至るまで「それぞれの物の見方」が存在しているように思うので。
この、火村さんならそういうふうに考えるかな、という気もする。
(まあ友人への気遣いでなくても、口に出すような人でもありませんが。)
(むしろアリスさんには言うこともあるかな、という感じか)




つーかねぇ、トリックが面白いかというと皆無じゃねぇんですか?
まあ、ミステリに慣れてないお人らなら、まあ面白いかもしれないし、慣れた人でもそこそこ手堅いくらいには感じるかもしれませんが、当時読んだ本がミステリ小説が一番多かった私なんかは「うへー」という程度。


右往左往する家全体が密室状態になっちゃってる中での「捜査」、警察に時折協力する火村さん(犯罪心理学者、いや、マジに学校の助教授さん、そーいう学問は本当にあるんですってばー!)なんてぇのは、慣れててもそこそこ好きでしたけどぉ。
あと、ドジっ子なアリスさんへのフォローがあんまりにもナチュラルなので、その筋の方は照れてよろしいかと思います。
特にアリスさんの推理失敗☆ のシーンはいまだに見れません...lllorz




でもねぇ、ディティールが本当に細かいんですよね。
主人公なんだろう火村さん(“臨床”犯罪心理学者←臨床ってのはアリスさんが付けた)とその友人、つか大親友である(これで表現控え目!)推理作家なアリスさんの設定だけが細かいのなら「けッ」と笑って済ませられますけども。
殺された人たちに対しても、ほとんど通りすがりに近い形で巻き込まれた被害者なんかに対しても、関係者の一人一人も、そしてその人たち同士の人間関係も。


本当に細かいんですよ。
アリスさんが見ることの出来る範囲内、という制限はありますけれども、だから本当にどこから来たんだろう、という程度の認識な人もいますけれど。
けど、このアリスさん、どんな関りの薄い人にも興味を忘れない。




この人の書く事件はどっか物悲しい。
それは悲劇ってんじゃなくて、どちらかというと滑稽に近い、当人がどんなに懸命であっても傍から見ると大抵滑稽なんですよね。
でも人間案外そんなものなのかもしれない。
こんな作家さんが、なんで「殺人事件」なんて書くのか知りませんよ。
人情モノみたいの書いても、私は彼なら読んでもいいかもしれない、むしろそのほうが今に至るまで飽きなかったかもしれない。


でも、ミステリを書く。
なんでか、ご当人もわかっていないのかもしれません(作中のアリスさんより)。