「月の影 影の海」三章/四章

原作の陽子には人を下に見るという認識すらなく。
ただ周囲に勝手にそう思われていた、逆に誰の意識にも逆らわずにしようとしたために「クラスの中にあった差別意識」まで肯定してしまっていたという、ある意味で最悪の状況に陥ってはいましたが。


アニメの陽子ははっきりとクラスの外れ者の少女を下に見る意識がある。


そーして、その子と自分の幼馴染である少年が付き合っていたということに、ショックを受けるという自分自身が許せない。自分のことを好きだと思っていたということを認めるのが息苦しい(なのに見下してた相手、優しく「してやっていた」少女と)。
きっぱり、偽善者というやつですな、キツいけど。
ただその分、多少の友人はいたんじゃないでしょうか。
原作では全くいなかったもんなぁ、彼女には恐ろしいほど罪がなかった、ただこの世界の異物として周囲に怯えていただけだったのですが。




なんだか逆説的な言い方なんですが、そんなものだと思うんですよね。
アニメの陽子は、そこまで特別な存在じゃない、ただの褒められたいだけの子に近い。
そいでもって、だからこそ、≪十二国≫の世界の住人たちが陽子に牙を剥くことになってもあながち違和感はない。確かに陽子は悪事はしてませんが、彼女も「この世界の摂理」に巻き込まれて当然だというふうに見える。
そしてクラスメートの少女がそれに拍車を掛ける。
彼女には周囲を利用する腹しかない。
ならばその返礼が裏切りであっても釣り合いが取れているように思えます。


原作の、真っ白な陽子が巻き込まれるのはそりゃあ辛かった。
なんでそんなことになるのかがわからないからです、悪意がないということが、人をどれだけ傷つけるのかというカラクリがきちんと積み立てられているのが読んでて苦しかったんですよ。
アニメは陽子だけじゃなく、作りも違う。


タツキという女性が、転がり込んだ少女ら三人をあっさりと遇したことも、最初からなんとなく奇妙だと匂わされていましたし。クラスメートの少女が、陽子に噛み付くのもむしろ違和感がない。善意にしてはなんだか与えられすぎているというか。
(怒鳴りながら少しだけ、見かねてという様子なら良かったんですが。)


だからタツキが少年を少女二人から引き離し、遊女宿に二人を売り飛ばそうとしていた流れもすんなりと進みました。陽子はショックを受けていたけれど、あれはどちらかというと同行の少女に怒られて当然だという気もします。
(名前覚えてないと大概不便です...orz)
陽子の異形の剣の力と、少女の機転で逃げ出し。
少年が別の助けを連れてやってくる、という展開。
そこには「裏切られた」という悲愴さもさしてありません。
切り抜けるべきアクシデントでしかない。




そもそも≪十二国≫の住人が、というわけではないか、彼らが降り立った国は他人のことを考えていられるような状況ではなく、他者を利用することはかなり平然と肯定されているように描かれています。
(これ自体は原作も同じ。)
襲い掛かる狼を前に、彼らの縄を切ってくれた役人も、一片の良心もあったんでしょうがむしろオトリにして自分が逃げる、というつもりもあったのでしょうが。
それも特に否定的に捉えられていない。
縄を付けたままでオトリにしても良かったくらいですしね。


陽子の剣が特殊であって。
多少どんな状況に陥っても生き延びることが出来るのですが、必ずしもそうでなくても助かるための布石ってのは敷かれている。なんというのかその意味での閉塞感はない。


けれど、クラスメートたちはその剣に頼る様子を見せ始める。
それを陽子は重荷に感じる。
残りの二人が付き合っているのに、自分の側にいる、言葉が通じるのが陽子だけなのでそうせざるを得ない、そしてこの二人に対して抱いている、陽子の複雑な心。


少女から向けられる、「見下し」への反発(そこに勘違いはないんです)。
そして異世界の住人であるらしい陽子のことを認めたくない気持ち、己こそが異世界の住人でありたい、選ばれた存在でありたいのだという捩れた感情。


ある意味で、普通の少女なんでしょうね。二人とも。


少年は些か幼くて二人の気持ちはわからない。
けれど、彼は彼で、「陽子のせい」なのではないのかという気持ちが全く芽生えてないわけでもなく、そしてそれを言うには彼女自体も巻き込まれていたとしか見えなかったこと。現在、陽子に頼らないと生活すら成り行かないことで口をつぐんでいます。


ならば、剣の見せる過去という幻は、陽子に原作と同じ影響は与えないでしょうね。
私には確かにある、傲慢という罪を諌めるものに見えませんでした。
それが悪いってわけではないんですが、正直ちょっと残念かなぁ。。。


◆◆◆
≫公式