「嵐が丘」下巻
- 作者: エミリーブロンテ,Emily Bront¨e,河島弘美
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/03/16
- メディア: 文庫
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そもそも顔のなさそーな薄そーな「紳士」が嵐が丘に来るところから話は始まります。
この人が結局、なんであったのか私にはわからない。
なんで彼の前にだけ、キャサリンが姿を現したのかも。
意味なぞないよ、と言われたらまあ頷くだろう。わからない。
キャサリンはひどく若くして死んでいて、その同じ名を継いだ娘がいて。
その夫だったエドガももう亡くて。
キャスリンが「魂の片割れ」と呼んだヒースクリフは今も虚脱の中を薄ぼんやりと生きている、他に毒を撒き散らしながら。けれど時折、健全なものに逆に蝕まれて。
ネリという小間使いが過去を「彼」に語る。
ヒースクリフと名付けられた少年が、キャスリンの父に拾われて来たこと、その子をやたらと父親が気に入っていたこと、キャスリンと二人、まるで獣のように暮らしていたこと。
けれどある日、キャスリンは。
美しい家の美しいエドガ・リントンに出会ってしまう。
そして、ヒースクリフと道が別れて、彼は結局姿を消す。
エドガは辛抱強く柔らかく、周囲はきっと、キャスリンのことを美化して愛しているだけだろうと思ったのだろうけれど、私はエドガはほとんど全てを知っていたような気がする。
ヒースクリフが紳士の為りをして戻り、キャスリンが揺れた時も。
彼が、エドガがキャスリンに告げたことは「どちらかを選ばなくてはならない」という極めて現実的なことだけで。
そこに誤解なんてのはないよーに思う。
それすら苦痛でキャスリンは病に倒れてしまい。
皆がそれは我が侭なのだろうと思っていたら死んでしまった。
一人の娘だけを残して。
ヒースクリフは自分に惚れたエドガの妹を浚い。
なにかの当て付けのように辛く当たり(でもこの子私も嫌い;)、そして彼女も一人の息子を、ひどく体の弱い息子だけ残して死んでしまう。
キャスリンの兄の子が、やっぱりヒースクリフの手に残って。
キャスリンとエドガの娘を強引に手元に呼び寄せて。
(ヒースクリフが自分の息子と結婚させたんですわ。)
世代は移り、己の息子は死んで。
キャスリンの甥と、キャスリンの娘が今はヒースクリフと一緒に嵐が丘の家に暮らしているというのが時間の流れ。
周囲全てを憎んで。
愛したはずのキャスリンすら憎んで。
なにもかもを汚そうとしてヒースクリフは生きています
なんていうのかなぁ、どこにも理解できるものがない。
エドガ、、、いや、ネリですらよくわからない。彼女は結局、全ての出来事の外にいて全てを見ていて、全てに少しずつ影響を与えますけれど、それでもやっぱり外にいるような女性で。
彼女のいるところには秩序があるけれど、彼女がいなくなると荒れてしまう。
ヒースクリフがやっぱり、一番暴れているのですけれども、けれどなんていうかそれだけという気はしませんね。
ネリ以外はなんらかの望みがあって。
その漠然とした望みのせいで大抵苦しんでいる。
私は、ヒースクリフの情熱とやらを、褒める気にはなれないけれど。
女ならそんなふうに愛されたいよね、みたいに言われたら踵落しをくらわせてしまうんですが(もう少し冷静に生きようよ)(いや男相手じゃなきゃいいんですけどもー)。
でも別に否定したいってわけでもないですね。
むしろ、いや、わからないでもないのかなァ。
私は彼は、キャスリンのことを、彼女がヒースクリフのことをそう評したように「魂の片割れ」だから愛したのだとは思いません。
激しい女だからの愛なのでしょうが。
似たものはそれこそヒースクリフにもあったのでしょうが。
そんなものは、もっとも大人しくて、なに一つ報われることがないってくらい優しいエドガにだってあったんだ(だから実は、ヒースクリフもエドガのことは認めていたりもするんですよね)。
それでもやっぱり、美しいモノを描いた話だと思いますよ。
それはどーにも、口で伝えられるようなものではないみたいなんですけども。