「凶笑面」−蓮丈那智フィールドファイル1

凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

≪密林.com≫

冒頭から。
「島なのに、渡来神伝説も浦島太郎伝説もなーいっ、なぜだか仮説を唱えなさい」みたいな問題が出てきまして、経度緯度やら村落の人数なんてのも書いてあるけど民俗学の授業を取ったことのない私にはそれだけじゃわからん(てか、蓮丈センセ以外の授業で習うのかどうかも見当つかない)。


そーかそーか、渡来神伝説やら浦島太郎伝説ってのは、島には必須なのかぁ。
とは思いますが、そこ止まりかなぁ。;


まあ、そっから遡って、「外から来た流入民に、皆殺しにされて住人が入れ替わってしまったんだよ!」くらいなら私でも言えるよーな気もするが。
(いや、作中での生徒の一人の答えなんだがね。)




ていうか、渡来神ってそもそもなんじゃないな、と思って検索してみたら、どうもこれは大陸系の神のことを指していう、、、のかな?
ついでに浦島太郎伝説は、どうもこれ、「遠ーくまで行って帰って来た漁師の実話アレンジ」説と、中国に似た話があるよー説があるらしい。
(いや似た話は実際あるんだが、うん似てる。)


えーと、中国関係の問題だったのかこれorz?
なんつーか、出題意図がわからんと辛いな、蓮丈センセの授業に出たらそのくらいはわかるのかなァ、でもなんか怪しいな。;




いや私も、民俗学関係の本を読んだことはあるけどさ。
中世の芸能と流民、あと神話をちょっと、それとそっからの連想で鬼くらい。
私としては珍しく好みがはっきりしてまして、歴史の裏側に存在する敗者や弱者が好きだという結果なのですが。
しかしこんだけ絞っても著者さんが違うと言ってること違うんだよねー。。。
まあ、作中でもかなり初っ端から似たようなこと言ってるけどな。


蓮杖那智センセは、大学の民俗学助教授さん。
フィールドワークが好きで、よく研究費をぶっちぎってしまっているよーですが、理解の深い(逆らえない)研究室助手のミクニくんに支えられつつ、好き放題やってられますよ。
冒頭の問題もなー。
小テストなら面白いけど(いや私には面白い)、人によっては卒業の掛かった試験だったりするのでまあ大変、つー話ですよ。




ちなみにミクニくんが蓮丈センセに召し上げられたきっかけとなったテストは、「ラーメンのナルトを、ガラパゴス式思考」だかで考えろとかいう、正直。


電波ですか?!


と言いたくなるよーなものなのですが、何度も見返して(もはや数年来)、やっとこさっき、本気でついさっき、「孤立してしまった島で、動植物が独自の発達をした」ことと関係があるのではないかと仄かに思い当たりましたとさ。
しかし「ラーメンのナルト」で語れってそれでもキッついよー。うがー。




これは短篇集で。
美貌の大学助教授・蓮丈那智センセが探偵。
その助手で、パシリな(正直ごめん、そう見える;)ミクニくんが語り部で時に狂言廻し、由緒正しいワトソン役ですな。
女探偵モノですが、女であることの特色ってのは滅多にない。
(2巻までいって、一つの話の謎解きくらい、むしろ「女」であるということの役割みたいなものから隔絶された人だとも言えるのかもしれない。)


この本では、鬼・面・「不浄の間」・鋼鉄。
ラストの話はちょっとややこしいんだが、仏教にキリスト教が混入している可能性について、という話で、それぞれが一話ずつになる。
そして、それぞれのテーマに絡み、現代の人間が事件を起こす。




蓮丈センセは、この二つの謎に同時に取り組まなくてはならない。


私なんぞでも、多少知ってる内容もあるにはあったが、それも鬼と鋼鉄、宗教に関してだけで、面の意味とか、そもそも「不浄の間」なんて概念はこの本で始めて知った。




でもって、その「意味」とて、けして不動のものじゃあないんだよね。
まあ、大雑把すぎるけれど、大陸では「鬼(グヮイ、、、グゥイかな?)」ってのは幽霊のことなんかが主だったりするそーだし。
そーいや、この話でも祖霊のようだ。


でも退治されるべきよーな、女を浚う存在だったりすることもあるし。
外国の人なんじゃないかなぁ? てなことを考えさせる話もあるね。


端的にいえば、完全に同じ立場の人間以外は、例えばどこかから来たとか、村でいえば外れた生活をしているとか、人より強い力があると、時によって「鬼」とされることがあるという感じだろうか。
そしてこの「異者」に名前をつけてしまう、つーのは、なにも鬼に限らず、妖怪だの神だの獣だの穢れだの、なにも不可思議な領域じゃなくても人間にも名前をつけて、名前をつけたことによって差別してもいいという構図を作る。




今でもね(これは2巻でそのテーマの話があるが)。
蓮丈センセが解くのは、事件の謎だけじゃあないし、民俗学ってのは、別段人間から切り離された超常自然話なぞではないらしいのだ。