「頑張って」と口にするということの続き。

続いてみる。


取り留めのない話をしたが、とにかく拒絶が激しかった。
どこでわかるのかというと、タイミングくらいしかないのだが、相手の反応からなんとなく感情だけはわかっていた。そーして多分、相手の子もそうだったと思う。


病気の話をした。
それを認めて貰えない、という、そーいう話を彼女はした。
苦しいのに、わかってもらえないのだとそんなよーな。その場所の私に話すこととして適当だったのかどうか、うんそもそも、私も望んでいなかったが、彼女もそんな状況は望んでいなかった。
結構悲観的であったよーなのに、どこかで楽天家だったのだろうか、それともその女二人がたまたま彼を上回っただけだろうか。


とにかく、未来を信じた男を介して望まないまま私と彼女は向き合っていた。


その夜に食べたピザを吐きそうになって、そんなことをして溜まるかと、そんなふうに彼女みたいに食事を無駄にして溜まるのかと、ほとんど呪うようにして考えた。
彼女の身を襲う悲劇に、同情なぞしていなかった。
けれど、彼女のことを見下してはいなかった。
可哀想だとは思わなかった、前を向いて欲しいともさして思わなかった、食事のたびに吐くという行為を、確かに嫌なものとして受け止めた。
けれどそれを全体的に、しょうがないこととして考えた。




なんだか負けて溜まるかということを考えていたしきりと。
私のほうがはるかにタイピングスピードが速くて、彼女が次の言葉を打つ前に、別の全く違う場所に、愚痴を打ち込んだ。
なんだか勝負でもしているかのようだった。


そーして多分、彼女は、私のことをねじ伏せようとしていた。
それは卑怯な形ではなくて、むしろ卑怯な手に入ったほうが負けで、真っ直ぐ思ったことだけを、無理のない形で口にして、そーして私に匙を投げさせようとしていた。
なんでそんなことになったのか、そーいう感情になったのかわからない。
私は、彼女に負けたくなかった。


話は、真夜中前から、5時くらいまでは続いただろうか。
もうフツーに話していても吐きそうになっていて可笑しくない長さだし時間帯でもあったろうなと正直思ってしまう。


生の話、死の話、そういえば彼女は何歳だったのか、確か幼かった。
すでに存在している偉人のコードなぞ通用しない。
それにおいて私が優れていたところで、年齢差を考えると別にどーとも思わないだろう、そーいう話で相手を圧迫するなんていうことを、正直私は普段していたが(反省はしない)、そーいう問題ではなかった、物を知っているかどうかは関係ない。




どれだけ、どのように物を見ているか、考えているかというそういう勝負か。
どれだけ悩んでいるかということならば、心を壊した彼女に軍配が上がるのだろうか、私は健康で、まあなんにしろ頑強な精神を持っているという触れ込みだった。


書いていても思うのだが、茶番である。


しかし、そんなことを言えば、その瞬間に彼女は私を見下して去っていただろう、彼女にとって深刻であるのならばそれが私にとってどうあろうと関係がない、彼女の中にたとえ頼まれてでも踏み込むのなら、己の価値観は関係がない。
人に踏み込むってのは、そーいうことだと私は思う。
そーでない場合は、相手の自分への好意に頼るくらいしか道がないとも。




そーして私は彼女に、うつ病の10近くも離れた年下の子に。


「頑張って」
と口にした、男の話をしたのだ、生まれる前に死んだという彼の妹。
そのせいで今も、死というものにひどく敏感である彼の話を。


君が救えと彼女に言った、毎日のように吐き、通学も出来ず、チャットにすら長時間おれず、私を拒絶しよーとしていた彼女に対して。頑張れとどーすればいいのかというようなことを言わずに、そのまま丸投げした。
彼から聞いたのは私だったが、助けて欲しいという意味合いではなかった。
そーしても構わないのかもしれなかったが、彼女に投げた。誰かに話していいなどという許可も得ていない。
彼女と彼がどーなったのか、実は今に至ってもよくわからない。
彼女は男のことが好きらしかったが、どーなったのかはわからない。




そーしてしばらく後、多分数日もたっていない頃。
彼女が学校を止めて働くのだというよーなことを話として聞いた。
私ではなくて、男に報告する形だった。
礼を言われたよーな気がするが正直よく覚えていない。


私が救ったという話ではけしてないし、彼女とのつながりはその些か私たちよりも楽天的で、ある意味正しかったのだろう男だけだ。
ただ、あの時の「頑張れ」を悔いるつもりだけは全くない。
それがもし、彼女を傷つけていたとしても、彼女が今、それ以前よりもさらに酷くなっているのかもしれなくても私は悔いることはしない。
そもそもそれは、私に関係のある話ではないよーな気がするし。


彼女のことはけして嫌いではなかった。
美しい存在だと思っていて、妬ましかったというのがあるのかもしれない。
あの夜とその言葉のことは後悔していない。
私にとって「頑張れ」というのは今に至ってもそういう意味合いの言葉だ。