「カルチェ・ラタン」

カルチェ・ラタン (集英社文庫)

カルチェ・ラタン (集英社文庫)

≪密林.com≫

さて、この本は、どんな切り口で書こうかと考えたりするのですが(考えるのですよ、いきなり打ったら“あんな”だったというのはラノベくらい、自分が征服しやすいレベルというのはあるみたいです)。
この「カルチェ・ラタン」に関しては四種類くらい考えていました。
わりと珍しいのですよね、だいたい一つには絞れてるから。




まず、だいぶエロい内容を平気で書く作家さんなのですが、それに反応する態度が男と女で面白いくらい違う、女にとっては「卑猥な小説」とすら感じないみたいです。
私もそう感じなかった、母もですね、ノーリアクション。
男の場合は、なんか言い訳しながら読んでます。
他のも読むよ、とか本気じゃないよ! とか。
歳喰った男性読者の場合は、女性の描き方が気になるといった内容を見たことがありますね、こんな「都合いい女」がいるわけない、みたいな。


てか、そこら辺が素直でいいよね、この作家さん。
こんだけ砕けた男の人なら付き合いやすくていいや。エロいけどさ。




ここまでで二種類(男女の反応差/都合のいい女)。
それからあとは、聖職者の描き方でしょうか、ちょうど裏返しの“禁欲”がテーマになった「薔薇の名前」とかカドフェル・シリーズ(禁欲っつーかまあ、おじーちゃん僧侶が主人公だから欲でぎとぎとはしないね普通に)などと、わりと時期が近いはずとか。
そんなことを書こうと思わないでもありませんでした。
てか、これもエロだわね。




最後の一つは、どうやら元となった「記録」が存在しているかもしれないということです。
かもしれないってのはそのまま、どこまで作りでどこまで本当かわからないという意味、別段、「記録」が存在しなくても驚きはしません。
または実は史実にかなり沿ってんだよん、というのもそれなりにあり。
てか、どうでもいいじゃないか、てのが本音ですね。


冒頭に「記録」に描かれた主の、子孫のじーさんが挨拶してるのですが。
(もしくはそういう設定で始まっているのですが。)
これがまた、微妙に勘違いした雰囲気がばっちりでなぁ。
荘厳で重々しく振舞おうとして、ちょっと滑ってるって内容で、それを読んだ時に(作り物ならね。)下っ手な作家だなぁ、早まったかなと思ってしまったんスよ。


本篇が始まったあとで、もちろん超謝ったさ!




いきなり執拗なおっぱい描写から始まるとは思わなんだorz


つか、こんなん全然全然エロくねー、女がエロを感じるのはむしろ禁欲ストイックのほうだよな、いっそ「薔薇の名前」のほうがエロいのです。
(笑いすら禁じられた閉鎖空間な。)
エロティシズムって言ったほうが通じやすいか。
で、その当の女にしたところで、自分で間違って見せた挙げ句、それに対してあんなに露骨に喜ばれて隠せてもいないのにそこらもよくわかっておらず、てかそこまで頭が廻らず、それをちゃんと恥じてくれてる子(見せたの自分なのになぁ。)なんてよほど潔癖じゃない限り、可愛いと思うに決まってら。


いくら愛人と間違えたとはいえ、潔癖な女が出会い頭に胸剥き出しにはしませんかそうですか、いやまったくです。




他にも主人公は、体の線を隠すはずが歩くたびに尻の形を浮かび上がらせる尼僧の服の後ろを、とてとて歩くだけで前屈みになったりな。
しかも、いつもいつも、真っ正直にその状況を捉えてるから。
もういい、もういいお前は頑張ってる、とか言いたくなってしまうー。


身勝手なヒトですよ、女に余計な夢見てますよ。
そもそも未熟ですよ。
女を包み込むような包容力があるかってったら、あんまりそうは言えないんじゃないかと思います、そりゃ、一人の女は“きちんと”救えたけどさ。
それまでに、“ひどいこと”もしてる。
しかも“いいこと”をしているつもりでね。


けれどどこかで、多分ぎりぎりの線で誠実。
少なくとも誠実であろうとしている良い青年だと思うのですよ、なにエロいことくらいは最初から別段欠点なぞではないし。
だから、「先生」は彼を可愛がったのだろうかね。
ろくでなしの破壊僧侶だけどね(けど超高位、家柄も超よろし、能力も超弩級)。




キリスト教の本元カソリックに対する(語弊は見逃せ!)プロテスタントの萌芽が見え初めている時代、血腥い事件なども飲み込み、庶民までが欲で人格を変えていく、そもそも暗いイメージのつきまとう中世。
地位あるものは放蕩の限りを尽くし、聖職者もその例外ではない。


家系は良いけれど能力がない、ただ街の警邏でしかない主人公の青年の側に、単に格付けのためだけに雇われたマギステル(=先生)もそんな聖職者のうちの一人。
青年の兄の出す、謝礼が多額だったというだけのことだ。
ただ、地位があるから傲慢というよりは、当人の性質で傲慢なのだろうが。w


女たちは時代に呑み込まれ、男も、傲慢な聖職者や地位の高い貴族たちも結局はそうなのかもしれない、どうにもならなくて。
もっとも卑劣なはずの人間すら、どこか哀れになるような本だった。




そして謎解き事件解決ものなのに、ちっともそう見えないのはなんでですか。
(すみませんorz)
あ、カルチェ・ラタンってのは、パリにある学問通りだそうです(あからさまに急いで付け足し風味)。