第十八話「山抱く衣」

正直言って別にこう、化野先生に売りつける点に拘らなきゃいいよーな気がするのですが、だってあの絵師の絵ってだけで売れるんでしょう? それとも全般的にヌルい人だから彼を騙すのが癖になっているのか。
しかし別にもともとの「性能」と言い張らなくても。。。
というか。


まあなんというか、とある山のある村から飛び出して来ちゃった少年が。
青年に育って、そもそもの目的の絵で身が立てられるようになって。
故郷に半ば錦を飾るつもりで(しかしやっぱり不安半分で)、帰ってみたらそこは山崩れで見る影もありませんでしたよと。災害直後にはお姉さんが筆頭に彼に手紙を書いたということなんですが、それに気付くこともなかったのか。
それとも捨てた故郷だから今更と思っていたのか。


まあいずれにしても今更なのは故郷の側なわけですがね。


絵師に弟子入りして、ほとんど下働きばかりをされられていて数年。兄弟子が捨てるのだという絵の具でもって、紙もなかったので姉が里を出るときに作ってくれた服の内側に絵を描き、それを見た絵師に認められて仕事を貰い。
そこから忙しい日々を送りながらなんとか名を上げていき。


そんなには焦らなくても良くなってきた頃には、半ばまともな感情を失い掛けていましたよと。そして故郷を思い出して。
しかし帰ると姉はとうに亡く、忘れ形見がいるばかり。




その子はなんでも成長が遅く、それがなんでだかわからないそうで。
彼は迷惑がられながらもその子を引き取り、なんとか暮らし始めてから数年の後に、彼の書いた服の内側の“山野の絵”のことでギンコが訪ねてくる流れになるわけですが。


まあ、迷惑というより、自分らとはすでに違う世界っつーか社会で身を立てていけるのだから、わざわざいらん苦労を背負い込むこともないだろうというのが多少切り捨てるような言い方になってしまっただけなんでしょうね。
まあ迷惑というのも半分くらいは実際あるのだろうしなぁ、と。


そしていつものごとく、化野先生へ売りつける蟲絡みのちょっとした記念品を持っていくくらいで基本無償の(ひょっとしてかなり高く買ってくれるのかなぁ? そうでなくてもどこかお金が出ているものなのやら)、ただまあ持ってくるものも基本彼の前知識というか経験談くらいというギンコさんがやってきて。
いきなり山で埋まってましたと。
この場合、あまり実際里の方たちは助けてくれないような気もします。
だってちょっと人間とは思いにくいものがあるし(ギンコって本気で人間かどうかよくわかんない部分あるし)。
ある程度割り切った、というか異なる者が存在することを知っている合理的な都会の風潮にも染まったことのある絵師な青年がその養い子と助けてくれましたよと。




彼が、ギンコが埋まることになったのはまあ、「絵」のせいなのですが。
その辺の土地にいるなんかようわからない形状の、有象無象のものらがその山野の絵に入り込んでしまったからなんだそーですよ。もともとの上着がその山から産出されたものばかりだったということもあるし。
まあ絵師の出身地も関係あるのでしょう、そうは直接言っていなくとも。
あとは、その絵師の腕もあったんでしょうかね。見まごう程の山と。


そもそもギンコがその上着を購入したのは。
その中に描かれた山の中腹から、煙が上がるのを見たからでした。


青年が自分の手で描いたものではありませんでしたが、そして見たのだということまでは語らなかったかもしれませんが。あれは一体なんだろう、誰も住んでいない山なのに。そこにいる神々が飯でも炊いているのかと姉と昔は眺めることもあったようですよ。
もともとどうも、彼らが山神として考えているものらが不定形の。
ぶっちゃけて気体っぽかったから、彼らが空に還っていっていた模様です。


山が崩れた時に、そこに逃げ込めたともあってこれからは土地は回復していくだろうと、そしてその山神が含まれた食物をこれから食っていけば。
今は成長の遅い姉の息子も育つようになるだろうと。
ということが、淡々と単に事実として運び。
喜怒哀楽も特にありません、故郷を永遠に失ってしまったことの青年の悲しみはありましたけれど、それだってそう長く引っ張ったというわけでもないし。


だからまあやっぱり。
この話の要旨はギンコが化野先生に衣を(なんで単語を統一せん)売りつける話ということでよろしいのではないかと思います。
絵の一枚も描いてもらえばいいんじゃないでしょーか、いやマジ。