「月の影 影の海」上

≪密林.com≫

“青春小説”ってのをもし読者サイドとして決めるなら、ものすごく意見が割れて、たまに「あー! わかるわかるわかる」という同感がある程度であるのが。
一番健全であるべきなのだと思う私は、世間のどこに属せばいいですか。
(しかし一旦一致すると同意はやかましいくらいがよろしいかと。)


うーん、≪皆で一緒に、捻くれ者連合≫とかかな→?
しかも仲良くです、お手手つないでレッツ捻くれ者。
手ぇつないでるくせに、タイミングも方向もばらばらなのですよ、あっちこっちで転ぶこと必至。手ぇつないでる意味超ないし。でもつなぐ。
うむ。




なんつーか、毎度のいらん前置きですが。
私の青春小説は、このあまり執着のないはずのシリーズの、この一冊めです、平凡であったはずの女子高生・陽子が延々彷徨うだけのこの上巻。
下巻の、楽俊つー支えが出来てからではないんだ。


そしてもう一冊は、ほとんど読んでもいない覚えてもないミステリ作家の一冊。


なんとなく、そんなものなのかなぁ、と思ってます。
私は優等生などと言われるような性質であったことなんてないし、むしろ人の印象に無駄に残るような「型破り」であるというほうが表現として近いのですが。
多分、周囲を空虚なものとして眺めていることが重なるんでしょう。


あれから何年も、それこそ10年近い年月が流れて。
もう結構前にこの本自体は特別には読まなくなったのに、いまだにこの本と自分を引き比べて考えることが出来ないみたいですよ。w
まだ私は、多分そう思ってます。どうしようもなくね。




誰のいうことも聞いて、誰にも逆らわずに、ある意味でひどく適当な生活を送っていた陽子さんは、ある日いきなり金髪がずるずると伸びた妙な男に押し掛けられ!
いや違った、変な化け物に襲われて、一応男に助けられまして。
そのまんま異世界、≪十二国≫に連れて来られてしまいましたとさ。


しかし、男はなぜかいない。
そいでもって、剣と剣を使うために陽子の体を操ってくれる妖魔(だっけ?)はいるものの、喋ってはくれないし。変な蒼い猿は湧くし。
なんかへろへろ踊ってるし、口は悪いしでまあ大変。
(とても誤解を招くと思うのですー、私の説明ってば。)


異世界から来たからって捕まって護送されそうになるわ。
なんとか助けられたら売り飛ばされそうになるわ、同じ日本から来た人にもなんやかやで裏切られるわで、ねぇ?
今読むと、なんか少し、尖がってるんですよね、記述が。


裏っから。
こんなもんよこんなもんよこんなものよ。


みたいな声が密かに聞こえてくる、裏切られるまでの破綻やら感じてたばすの罪悪感やら寄せていたはずの信頼とか。
心の拠り所めいたものを一個ずつ丁寧に丁寧に陽子は磨り潰されていきます。
他の誰でもなく、作者さんの手によって。
うん、今読むと、私にはそうとしか読めない。


故郷であるはずの≪日本≫が、彼女の持つ、金髪ずるずる男(ケイキ)に与えられた剣に、夜になると写ります。
連れ浚われてしまった陽子に対し。
どの顔もどの顔もどの顔も、ひどく勝手なことを言う。
けれど、その言葉は、別にその人の、知り合いや友人や親たちのせいだけでもなく、陽子自身のものでもあるのです。




講談社文庫版の下巻の解説に「ビルドゥングスロマン」と書かれているのだけど(成長物語、といった意味合いらしい)、なんかちょっと奇麗にまとめすぎかなぁ、というのが本音。
むろんそう読み取れる、というところには評価をしますがね。w
(なかなかいい解説だと思う。)


なんか、なんていうのか、どんなことを言っていても、どんな絶望の淵に立っても、陽子の中に生まれるのは、「誰か」への怨嗟ではないのだな。
それは見ていて気持ちが悪くなるってぇことはもちろんないけど。
もとからそんだけ、そのくらい人に期待してなかったということでもあるのではないかとも思うのです。


十二国≫の世界は生きるのが厳しいところのようです。
妖魔も出てくるし、そもそも陽子のことを狙ってくる、人を信じられなくなって、剣を振るって妖魔を殺す時だけが楽しい。
暴言を吐く、蒼い猿すらも言葉を交わす相手として退けられない。


陽子の精神も、肉体も(これは補強がいくつかある)、ありえないくらいに強い。
それでも、どんどんと削られていく、彼女もそうされることをある意味で受け入れる、諦める。もとからの性格もあるんだろうきっと。


彼女に最後に残るのは、一体なんだろうというような話として読んだのですわ。
で、私は多分下巻に納得してないんだな、きっと。うん。
超善良ネズミは反則だと思うんだよなぁ、、、もちろん好きだともっ、けどなorz